パンのテーブル、世界の味。 vol.6 パンと保存食 冷たくても温かい食卓 パンのテーブル、世界の味。 vol.6 パンと保存食 冷たくても温かい食卓

ドイツの食肉加工文化とは?

私、元ハム屋勤務なもので、ハム・ソーセージにはちょっとうるさいのです。そのおいしさに目覚めたのが“ドイツのマイスター直伝の味“だったので、特にドイツのハム・ソーセージへの思い入れが強いのです。

ドイツの食肉加工の文化は、厳しい冬の寒さを乗り切るための保存食として発展してきた歴史があります。地域ごとに、それはもうたくさんの種類があります。特にソーセージは、肉の挽き方(細挽き、粗挽き)やスパイスの配合、サイズ、副素材等でさまざまなバリエーションが生まれました。
日本でソーセージというと、ウインナーソーセージを思い浮かべる方が多く、お弁当とか朝食のイメージがあります。でも、ドイツでは様々なサイズ、味わいがありそのままでも完成された一品なのです。

冷たい食べ物とは?

そんなドイツの日常的な食卓では、料理をする機会が少ないそうです。ストックしているハムやソーセージ(写真①ベルリンの市場)、そしてチーズやピクルス、ディップ類(写真②③ベルリンの市場)等、伝統的な保存食を冷蔵庫から取り出したら完成です!あとはパン(④ベルリンのベッカライ)をスライスしてテーブルに並べるだけ。各々がパンにバターやペーストを塗り、ソーセージやチーズをのせて自由に組み合わせていただきます。
言葉だけ見てみると、なんだか味気ないように見えますが、実際に並べてみるとなかなか豪華!パーティーのようです。

この食事のことをドイツ語で「カルテス・エッセン(KALTES ESSEN)」と言い、ドイツ語で冷たい食べ物の意味です。食卓に並ぶのはその道のマイスター達が作った、ハム・ソーセージ、チーズ、パン。プロの味です。シンプルだからこそ、飽きずに毎日食べ続けられる。連綿と続く食文化の重みが感じられる、そんな家族の毎日の食卓は、冷たい物ばかりだけど温かなおいしさにあふれています。

カルテス・エッセン

材料(2人分)
お好みのドイツパン
適量
お好みのハム・ソーセージ
適量
レバーペースト
適量
マスタード
適量
お好みのピクルス
適量
お好みのチーズ
適量
バター
適量
  1. ※チーズはハード系、セミハード系などスライスするタイプのものだけでなく、クリームチーズタイプのものがあるとバランス良くいただけます。
  2. ※ここでは粒マスタードを添えていますが、お好みでディジョンマスタードでも。手に入ればドイツのマスタードを色々試してみるのもいいですね。
作り方
  • お好みのものをお好みのプレートに盛り付けるだけ!そしてお好きな組み合わせで自由に楽しみましょう!
調理のコツ!
  • 切って並べるだけなので、調理のコツはありませんが、ハム・ソーセージの選び方がポイントです。お好みで……と言われてもスーパーではドイツのように種類はないですし、本格的な味わいのものも限られてしまいます。
    機会があれば、ぜひハム・ソーセージの専門店で色々な種類に挑戦してみてください。お値段もお高めですが、一度味わうと納得できるおいしさです。
    スライスしたものは1枚から量り売りできるので、色々な種類を少しずつ試しながら好みのものを探しましょう。

アレンジレシピ

ザワークラウト

ザワークラウト

ザワークラウトは、ドイツの食卓に欠かせないキャベツのお漬物です。ドイツ語で酸っぱいキャベツの意味で、その名の通り、しっかりとした酸味が特徴です。
ハム・ソーセージに添えてそのままで、またベーコンやソーセージと一緒に煮込むこともあります。この煮込み料理もザワークラウトと言い、ドイツを代表する“温かい”料理です。
温かい料理も冷たい料理も、同じものを同じように組み合わせているのを見ると、ドイツ人の食卓は合理的だと関心しますね。ちなみに、ドイツのお隣、フランスのアルザス地方には、まったく同じものがあり、こちらはシュークルートという名前です。
さて、ザワークラウトの酸味は、酢漬けにしているのではなく、乳酸発酵によるものです。
ライ麦パンの酸味も乳酸によるものなので、ライ麦パンとザワークラウトが合うのも納得です。
ザワークラウトもハム・ソーセージと同様に、厳しい冬を乗り越える為の保存食。冬の貴重なビタミンC補給源でもありました。
缶詰や瓶詰めの市販品も手に入りやすいのですが、機会があればぜひ手作りにも挑戦してみてください!ほどよい酸味とさわやかな香りが特徴で、格別のおいしさです。

材料(作りやすい分量)
キャベツ
1個
キャベツ重量の2%
キャラウェイ
小さじ1/2
ジュニパーベリー
4粒
ローリエ
1枚
作り方
  • キャベツはせん切りにして、計量する。キャベツの2%の塩をキャベツに合わせよく揉み込む。
  • ジッパー付きのビニール袋に①とキャラウェイ、ジュニパーベリー、ローリエを加え、空気を抜く。キャベツから出た水分にしっかり漬かる状態にして、このまま室温に4日から1週間ほど置いて発酵させる。
  • ほどよい酸味が出てきたら保存瓶に移し、冷蔵庫で保存する。

POINT

ドイツパンというと、黒くて固いライ麦パンの印象が強くありますが、実際はバラエティ豊富です。寒さの強い北部ではライ麦の栽培が盛んで、ライ麦パンが主流です。南部にいくと小麦の栽培量が多く、白いパンも一般的です。また、ライ麦と小麦粉の割合によっても様々な種類があります。
ドイツで最も食べられているのは、ライ麦よりも小麦粉比率の高いヴァイツェンミッシュブロート。食べやすく、マイルドな味わいです。ライ麦の味わいになれてきたら、ライ麦比率の高いベルリーナラントブロートがおすすめです。そのまま食べると酸味が気になるライ麦パンですが、食べ合わせで大きく印象が変わります。たっぷりとバターやディップ類を塗ったり、伝統的なハム・ソーセージを合わせると、食べにくく感じたクセが、深みのあるおいしさに変化します。
ドイツパンが苦手な方にこそ、「わ、おいしい!」と思える瞬間に出会っていただけたらと思います。

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焼きソーセージとパンの関係

ドイツでは、ハムのことをシンケン(schinken)、ソーセージをヴルスト(Wurst)と言います。どちらもドイツの食卓に欠かせないもので、特にヴルストは、サイズも形もバラエティ豊富です。カルテスエッセンとして冷製でいただくのは、ハムのように大きく作って薄くスライスすることが多いので、日本ではハムだと思われている方も多いようです。ソーセージ、と聞いてイメージしやすいのは、フランクフルトやウインナーでしょうか。これらは温めていただくことが多く、ゆでたり焼いたり、種類によってベストな温め方が決まっています。

街角の屋台インビス(Imbiss)の定番と言えば、焼きソーセージ、ブラートヴルスト(Bratwrust)です!焼きソーセージ、といっても、串刺しにしたソーセージがどーんと出てくるのではなく、ブロートヒェン(Brötchen)と呼ばれる小型のパンにはさまれています。(写真①②③ベルリンの市場の焼きソーセージ屋台)
ホットドッグのようですが、私たちがイメージするものとはバランス感が違います。パンが小さくて大きなソーセージがパンから極端に飛び出しているんです!
そう、これは、焼きソーセージが主役で、ここでのパンはソーセージを片手で食べるための、お皿でありフォークの代わりなんですね。